
旅は続いている。
トシカの朝食は、宿で焼くパンと手作りジャムの洋食だった。

メシを食べていると、宿の庭に棲み着いているシマリスが姿を見せてくれた。


シマリスの次はエゾリスも出現。
同じとほ宿のカンタベリーもエゾリスで有名だが、いつ見てもエゾリスは大きいなと思う。
エルフみたいで可愛い。

食後、部屋で寛いでいると、昨日温泉に連れて行ってくれたYさん夫婦が出発すると吉沼さんから声がかかった。
(左がYさん嫁、右が筆者)
旅人宿の、こういうお見送り文化がとても好きだ。
これまで日本全国で素晴らしいゲストハウスや民宿に何軒も泊まってきたが、北海道の宿のウェットさと言うか、他のゲストや宿主との距離の近さは別格だと思う。
GWの旧共産圏珍道中を最後に、婚活に専念するため海外一人旅を休止すると宣言した訳だが、これ以外に旅先で(男女問わず)日本人に出会う機会が本当に少なくなったことも影響している。
前はどの旅先でも宿で日本人と会い、一緒に観光したりコモンスペースで語らったりするのが楽しかったのだが、コロナ禍を経てそうした機会も減ってしまった。
とほ宿に限らず、旅人宿はたいてい宿泊客みんなでの夕飯や飲み会があるので、日ごろ脳を破壊されている身からすると実に都合の良い現実逃避タイムとなる。
札幌/小樽/函館/旭川の4大観光都市はともかく、地方部に行くような人はやはりコアな旅好きが多いので、こういう旅を続けて試行回数を稼ぐのが幸せへの第一歩かもしれない。

さて、トシカの宿には連泊するため、この日は観光に専念できる。
浜頓別から猿払村まで続くエサヌカ線という道があり、ライダーに人気のスポットとなっているが、同じ部屋だったライダー(朝食前に出発)曰く道はずっと平坦なのでチャリでも問題無いとのこと。
そうと分かれば話は早く、セイコーマートで行動食と飲み物を買い込み、トシカの宿のママチャリでエサヌカ線に突撃することにした。
ちなみに、セコマの隣にあるローソンは、つい先日オープンしたらしい。
セコマとローソンでは性質も全く違うし、何も潰し合うようなことをしなくても良いのではと思うが・・・


浜頓別は小さな町で、10分も走るとすぐ郊外になる。
そう言えば、ネットはザ・ノンフィクション屈指の神回とされる漂流家族を昔観たことがあるのだが、劇中で竹下家が移住して来た町こそ浜頓別なのであった。
ライダーに教えてもらった通り、エサヌカ線の入口に至るまでの道も平坦で走りやすい。ママチャリで余裕。

さあ、これがライダーの聖地として名高いエサヌカ線だ。
国道238号と並行する形で、全長は約16km。
ほぼ一切の人工物が無い。


ブログ的には代わり映えのしない写真が続くけれど、実際にチャリで走ると「最高」以外の何物ではない。
空と大地と一体化するような、圧倒的な北海道体験。

シーズン中なので車やバイクも多いのだが、見晴らしが良過ぎて超遠距離でも視認できるので、写真を撮るタイミングも計りやすく、困らなかった。
ただチャリを漕いでいるのは私くらいなもので、ライダーの中にはすれ違う際に激励してくれる人もいた。
恐らく、稚内まで行くチャリダーと思われているのだろう。
実際は浜頓別からチャリで来ただけなのだけど・・・

草原を見ながら喰うホットシェフのおにぎりは格別。
具は北海道でメジャーなベーコンおかかで、鮭と塩サバばかり食べていた私のセコマライフに一石投じる美味しさであった。


エサヌカ線において右左折は片手で数えるほどしか無く、あとはひたすら直線が展開されるが、数少ない曲がり角の先にオホーツク海が広がっていた。
2021年に北海道の虜になって以来、何度も北海道を旅してきたが、ようやくオホーツク海に到達した。
中学の時に家族旅行で知床に行っているのでオホーツク海自体が初めてという訳ではないけど、感慨深い。


ここから浜猿払の集落までは、右目にオホーツク海を拝む、ひときわ楽しい区間となる。
海風の影響か、草原もロスト・ワールドに出てくるヴェロキラプトルのコロニーのような趣に変わった。

大自然の真ん中を無心で走り抜けるのは、襲いかかる不都合な真実から逃げ惑う会社員生活と、真逆の境地と言える。
大自然と旅人宿での語らい。ここまで、今回の旅に求めていたことを順調に達成できている。
結局、エサヌカ線は1時間半ほどで突破できた。
だらだら写真を撮らなければもう少し早く抜けられると思う。


大戦中、豊原(サハリン)まで電話回線を開通させた際の、ケーブル陸揚げ中継地の跡で少し休憩。
かつては浜猿払も猿払も鉄道(鉄道)が走っていたり、私は当時を生きた人間ではないものの、このあたりを旅する時は不思議な郷愁の念に襲われる。

今日における猿払村と言えば、何を差し置いてもホタテである。
ホタテ漁で一部の家庭は凄まじく潤っており、北海道の長者番付の常連。
とはいえ金を使う場所も無いので、エレベーターを設置している家もあるんだとか・・・
そんな話を前に聞いたことがあるが、たしかに(失礼を承知で言うと)最果ての村とは思えないくらい、洒落たお家が並んでいて興味深かった。

さて、浜猿払に着いた時点で11時半。
浜猿払の集落には飲食店など無く、はまとんに戻るのも時間がかかるので、もう少し頑張って猿払村の本町まで行くことにした。
まぁ、少しと言っても浜猿払から12kmあるが・・・


猿払にはもう1つ、幻の大魚・イトウの生息地としての側面がある。
猿払に泊まりたいと思って色々調べていた時期があるのだが、どの宿でも釣りに言及していた。

オホーツク海を眺めながら自転車を走らせる。
ここまでの道に比べると少しアップダウンはあるものの、トータルではママチャリでも余裕だ。

浜猿払を出てしばらくすると、パーキングシェルターなる設備が鎮座していた。
関東民からすると全く馴染みが無いが、どうやら吹雪等から避難するためのシェルターらしい。
シェルター内は車両の通行帯と駐車ゾーンに分かれていて、トイレと自動販売機がある。
トイレでは延々と演歌が流れていて、20世紀少年のともだちランドのようなディストピア感が漂っていた。

海風を避けるため、国道238号ではなく内陸の道道1089号を走ることもできる。
ただ翌日バスでここを通ったが、「ヒグマ出るかんな。危ないかんな。」オーラがプンプンしたので、特に早朝や夕方は国道238号を走った方が良いだろう。

エサヌカ線の入口から約2時間半で、道の駅さるふつ公園に到着した。
トシカの宿から片道35km。かなり達成感あるぞ!


道の駅さるふつ公園には、レストラン2軒だけでなく軽食の売店があり、他にもホテル、温泉、キャンプ場、土産物屋と、かなり設備が充実している。

猿払の本町に食堂は無さそうなので、道の駅で昼食を食べることにした。
まずはホタテカレー。
本当はカツカレーが食べたかったんだけど、はるばる猿払村に来たんだからホタテを食べないと・・・
そして味噌ラーメン連食。
道の駅のホテルのレストランだしな・・・と侮っていたが、辛口の濃ゆいスープと硬めの麺は我が好みのド真ん中であり、忘れられない旅の味となった。

実家への土産にホタテカレーを買い、道の駅を少し観光。
この猿、ゆるキャラ、マスコットキャラクターとして100点満点のデザインだと思う。


道の駅さるふつ公園の裏名物?の地下道。なんでこんなものを作ったのか、コンセプト含めて謎だが・・・
こういうところからも、猿払村が潤っていることが分かる。

道の駅がある浜鬼志別沖で、旧ソ連の船・インディギルカ号が座礁(1939年)、大勢が犠牲となった。
国道238号を挟んで道の駅の反対側に慰霊碑があり、当時を偲んでいる。


我が親友の北川くんは、水産会社の新卒時代にホタテを担当していた。
早々に中国駐在となってしまい、彼とも今生の別れかと覚悟したが、どうも今年の秋から日本に帰ってくるらしい。

道の駅に戻って牛乳を飲んでいると、今朝方見送ったYさんご夫婦に出くわした。
Yさん旦那は、かつての天北線の駅を熱心に見て回っているらしい。最後にまた挨拶できて良かった。


道の駅からもう10分くらい自転車を漕ぐと、猿払村の中心部に到着。セコマで非常食を買い、はまとんに戻る。

私は釣りの趣味は今のところ無い。
が、イトウはいつか見てみたい。
エキノコックスが嫌だから川では泳げないけど、そんな大魚に遭遇したら怖いんだろうな。
そして、ケツが痛い。

景色が素晴らしいのと、写真を撮る意欲が湧くかは別問題である。
変わり映えのない景色が続くので、いちいち写真を撮ったりはしないのだ。
そして、ケツが痛い。

無心でチャリを漕げるというのは考えもので、大自然に没入しているうちは良いのだが、一周回ると思考が他の方向にいってしまう。
放置してきたあの仕事はどうなっているのか、こんな練習量で剣道の試合に勝てるのか、次はいつ出張に行けるのか、綾瀬はるかはジェシーと旅先でどんな夜を過ごしているのか。
ストレス源から離れていても、少し油断するだけで記憶や想像が襲いかかってくる。
人の脳とは実に不便だと思う。
そして、ケツが痛い。

こういう時、動物は不確定要素なので、景色に変化を与えてくれる有り難い存在だ。
私は何回も北海道に通うことで狩人並の視力を獲得したため、遠方のエゾジカも容易に視認できる。
猿払川のあたりで何頭かエゾジカを目撃したものの、エサヌカ線では意外にもそれほど鹿に会えなかった。
朝食前にエサヌカ線までドライブしたYさんご夫婦は鹿の大群を見たと言っていたので、タイミングの問題か。

そして放牧されている牛。
北海道では旨い牛乳がどこでも飲めるので有り難い。


トシカの宿に戻る前に、ベニヤ原生花園を少しだけ散策しようと考えたが、もう花も終わっているので5分くらい木道を歩いて退散した。

エサヌカ線の真ん中あたりでオホーツク海がドーン!と現れて感動したのに、ベニヤ原生花園(浜頓別市街地からすぐ)の先がもう海だったのか。
旅行は好きだけど、あまり地図は見ないからなぁ

後半はケツの痛み、それからネガティヴな考えに苛まれたものの、トータルでは200点満点の素晴らしい自転車旅行であった。北海道のダイナミズムを肌で感じられた。
改めて、エサヌカ線まで簡単に行けることを教えてくれたライダーの兄貴に感謝である。
また、私はこれまで移動多めで多くの町や宿を訪れる旅行スタイルだったが、やっぱり連泊は観光に費やせる時間が多くて良いなと思った。
元の計画では昼に浜頓別着、翌朝出発だったので、せいぜいクッチャロ湖とベニヤ原生花園に行くのが精一杯だっただろう。
旅の後半は利尻のうみねこゲストハウス、そして稚内のばっかすと馴染みの宿で連泊するので、のんびり観光と飲み会を楽しみたい。

トシカの宿でママチャリを返し、ビール片手にクッチャロ湖畔へ。夕日を眺めながらビールを飲む至福のひととき。
なおトシカからクッチャロ湖畔までの道は両脇が林なので、ポケモンのダイヤモンド・パールのbgmを熊鈴代わりに流しながら歩いた。
ダイパの舞台のシンオウ地方は北海道がモチーフだし、シンオウにはリングマが住んでいるので臨場感がある。

私の苗字は水に関係しており、水タイプなので水路が張り巡らされた町や漁村を歩くと、激しくコーフンしてしまう。
友人諸君には、お前は岩タイプだろと言われるが・・・
特に湖はそれが顕著で、好きな町トップ5に入っているオフリドとタウポは、どちらも湖畔の町である。
浜頓別も、クッチャロ湖のお陰で相当に気に入った場所となった。

トシカの宿の夕食は、1泊目は一律でラム。
ただし、連泊者は30種類ほどあるメニューの中から、希望の物を選べば大体何でも作ってもらえる。
サイクリングで身体を酷使することは分かっていたので、私は前の晩にジャンボハンバーグ(200g)をお願いしておいた。
肉肉しいハンバーグにかき揚げ、マグロの刺身とおかずが豊富で、白米3杯が瞬く間に胃に消えていった。


食後は、昨日も行ったはまとんべつ温泉ウイングに、今日は徒歩で赴く。
先日の福島町の一件があるので、住宅街とは言っても少し怖い(緑園都市あたりの住宅街の密度をイメージしてはいけない!)
途中、木々に囲まれた小道を通るタイミングもあり、その時は本気で怖かった。
そもそも、はまとんべつ温泉ウイングに隣接しているキャンプ場もたまにヒグマ出没で閉鎖すると聞いたし・・・


今日も良い湯加減であったが、帰りもそこにはいないヒグマの影に怯えながらの移動となり、せっかく温泉に入ったのに冷や汗をかいてしまった。
不都合な真実に直面したら脳を破壊され、自分で見聞しなくとも幻影に苦しめられる。
会社も北海道も本質は同じなのかもしれない・・・