韓国江原道の小さな町、束草。
北朝鮮との国境から60kmという火中の栗的ヤケクソな場所にあり、朝鮮戦争の前は今で言う北朝鮮の領域だった、なかなか激動の歴史を辿った町である。
そんな束草にあるアバイ村。朝鮮戦争の時に南に逃れてきた北朝鮮が作った村ということで、旅系ユーチューバーがこぞって動画にしているのを見て興味が湧いた。
今回は、そんなアバイ村をいつもの如く一人旅で歩いて来たので、その様子をリポートしたい。(24年11月訪問)
アバイ村への行き方
アバイ村は日本海東海に浮かぶ中州的な小島で、ケッペという渡し船が主な交通手段となる。
不謹慎なこと承知の上でこんな表現を使うが、写真奥に見える難民船的な趣きの船がケッペ。
対岸に上陸後、橋の下をくぐるとアバイ村が広がっている。
本土側の船乗り場は、市外バスターミナルから徒歩20分くらいの所にある。
最寄りのバス停は갯배입구もしくは관광수산시장。
船乗り場の周りには、たくさんの海鮮レストランが並んでいる。
そして船乗り場の裏にはお洒落カフェも。
肝心のケッペの乗り方だが、本土→アバイ村の時は対岸に上陸した後に運賃を支払う。
時刻表なんてものはなく、こっち側に船が来たら乗るただそれだけ。
満員にならないと出発しないなんてことはないが、時間帯によっては少し待つかもしれない。
上陸後、こちらの端末で500ウォンの運賃を支払い、伝票を係員のおっちゃんに渡して村に入る。
アバイ村→本土の船に乗る時は、乗船前に券売機で運賃を支払って、写真2枚目の箱に伝票に入れる。
注意点は、片道たった60円くらいの運賃を支払うのにカードしか使えないこと。
係員のおっちゃんに現金を手渡せば何とかなるのかもしれないけど、基本的にはカードオンリーと思った方が良い。
こんな少額でもカードで決済できることからも、韓国のカード社会っぷりが分かる。
ちなみにこのケッペ、両岸がケーブルで繋がっていて、そのケーブルを船乗りが手繰り寄せる形で前進させる極めて原始的なオペレーション。
結構な割合でお客さんもケーブルを引く役目を仰せつかることができ、特に小さい男の子が楽しそうにチャレンジしているのが微笑ましかった。
夜はこんな感じの夜景を楽しめる。
ちなみに・・・
ケッペに乗らなくても、本土→アバイ村→本土という風に架かっている高架橋に歩道が設けられていて、歩いて村に行くこともできる。
この高架から見る夜景は素晴らしい。60kmしか離れていない北朝鮮との差を感じずにはいられない。
町歩きレポ
さて、ケッペで上陸し、高架橋の下を抜けるとアバイ村が広がっている。
束草は昔やった有名のドラマのロケ地でもあるらしい。
韓国屈指の名峰、雪岳山もあるし、アバイ村以外にも観光コンテンツは豊富。
横断歩道を渡り、村に入る。
村のメインストリートには、名物のアバイスンデ(北朝鮮風スンデ)やオジンオスンデ(イカのスンデ)を楽しめる観光客向けの食堂がいくつも並んでいる。
今のアバイ村では、このスンデ以外は北朝鮮要素をほとんど感じることができない。
アバイ村のアバイはお年寄りの意味。これは北朝鮮から逃れて来てここで村を作った人の多くがお年寄りだったから。一緒に子どももいたのだろうが、そこから70年が経ったから・・・
そんな訳で、「北朝鮮人の末裔が今でも北朝鮮の伝統的な暮らしを営んでいる村」のようなイメージでアバイ村に来ると、正直かなり肩透かしを喰らう。
スンデ屋の他には無人商店やお洒落なカフェがあるが、基本的には観光客を相手にしている印象。
村の端っこにあるカフェは、ソウルや釜山にあってもおかしくないようなインな趣きだった。
村を抜けるとちょっとした公園があり、
公園の先は小規模ながら海水浴場になっている。
小さい子どもや老夫婦が寛いでいてピースフルだが、夜に来るのは少し怖いかな・・・
海水浴場の奥の方には、「38度線で分断されてしまった悲劇」を表現したオブジェがあり、今は平和な観光地になったアバイ村だが、それでもやっぱり北朝鮮とは切っても切れない関係の場所であることが分かる。
他に北朝鮮を感じられる要素としては、高架の下にいくつかオブジェや写真が飾られていて、避難民がアバイマウル(アバイ村)で貧しくも懸命に生活していた様子が分かるようになっている。
この獅子舞みたいな子達はなんなんだろう・・・
北朝鮮にも濃ゆい文化がたくさんあるだろうし、いつか平和になったら旅行してみたい。
気軽な観光地になってしまったアバイ村だけど、それでもここは(北朝鮮人の末裔か韓国人かに関わらず)普通の人が暮らす場所。
メインストリートから外れれば、生活感のある路地歩きを楽しむこともできる。
メインストリート以外は実に静か。
いわゆる地元民向けのスーパーは無いけど、まぁケッペで本土に渡れば市場があるし問題ないだろう。
こんな細い路地にも番地の標識があるのが韓国らしい。
こういう健康マシーンを見ると、「嗚呼、観光地となったアアバイ・マウルにも、まだ地元民の魂が残っているのだ」と嬉しくなっちゃうね。
超高齢化社会の韓国では、日本以上に手押し車を見る機会が多い。
ケッペに乗る時も、見知らぬアジュンマの手押し車を積み込む大役を仰せつかった。
どことなく練馬っぽさ。
大学時代、部活の師範のお宅にお邪魔するのに大泉学園に通った日々を思い出す。
大泉学園は落ち着いていて、自然も残っていて、それでも店は多くてそのバランスが大好きな町。
結婚できたらああいう町で子育てしたい。
夜の部
束草2日目にして最後の夜、まだ遊び足りなかったから、再びアバイ村に行ってみることにした。
チャリでも高架橋を走行できるからか、チャリを携えてケッペに乗る人もいた。
↑夜でも懸命にケーブルを引く船乗り
海沿いの遊歩道から臨む高架橋と夜景。
遊歩道では夜釣りにバーベキューと束草市民が思い思いに一席設けていて、「北朝鮮から60kmの海辺」の光景とはとても思えない。
対岸からライブの音楽が聞こえてきたので、ちょっくら橋を渡って遠征してみることにした。
橋からは、人気サウナのOcean Spaが見えた。
対岸に降りてみると、倉庫や閉店後の海鮮料理屋が多く、大田区のようなどこかアーバンな雰囲気。
ただ、近くでライブをやっているし、歩いている人も多いから全く怖くない。
夜でも安心して歩けるというのは、韓国の大好きなポイントの1つ。
丸眼鏡かけた女性くらい、好きだ。
平和的で可愛らしいライブ。
韓国は地方都市が元気な上に交通網も発達してるから、気軽にユニークな旅を楽しめて好き。
ユニクロの黒ニット着た綾瀬はるかくらい、大好きだ。
こっち側にも遊歩道が設けられていて、地元の若者たちがビバリーヒルズ青春白書してた。
来世ではジェシーみたいな高身長マンに生まれ変わって、綾瀬はるか似の美女と一緒にこの夜景を見たい。
橋の上から見る夜景も美しい。
再びアバイ村に戻り、最後にメインストリートを歩く。
21時過ぎともなると他に歩いている人もおらず、食堂のアジュンマ達がダルそうに閉店の準備をしていた。
これから先の人生、またアバイ村に来ることはあるのだろうか・・・
対馬からフェリーで釜山に渡り、陸路で板門店から開城へ抜け、未知なる北朝鮮を旅し、最後は中国延辺朝鮮族自治州を歩く。
いつか朝鮮半島に平和が訪れたら、そんな旅がしたい。
所感
何も考えないで歩くと没個性的な観光地で終わってしまうけど、じっくり歩いてみると味のある路地を楽しめる。
脳死で北朝鮮らしさを味わえる場所ではない。
ただ、のどかなアバイ村、思い思いに過ごす束草市民を見ると、38度線の重みを感じられることだろう。